まずは、回収対象となる資産を確保する方法
「仮差押え」について解説します。

債権の保全方法‐仮差押え‐

仮差押とは?

仮差押とは、将来の強制執行等による債権の回収を保全するために、仮に債務者の財産を差し押さえて、債権の支払原資となる財産を確保しておくことです。債務者の支払義務が民事訴訟等で確定する前に行われる仮の差押であることから、確定判決等に基づく強制執行とことなり、仮差押の保証金を供託することが要求され、この保証金の供託が仮差押えを行う際の最大の問題点となります。

ポイント解説‐保証金の支払保証制度

債権回収においては、支払原資となる財産を確保することが重要になるため、基本的には仮差押をしておきたいところです。

もっとも、上記のとおり、仮差押の場合、保証金を供託することが必要になります。債権が未収になっている場合、ただでさえ資金繰りがくるっている上に、弁護士費用も支出し、その上、保証金も供託するとなると手元資金との関係で、仮差押は断念するということが非常に多くありました。実際の案件でも仮差押をしておけば、より有利な条件で和解できたはずということも珍しくありません。

このような問題点は弁護士業界では長年の懸案事項であったのですが、2019年に損保ジャパンが仮差押の保証金の支払を保証するという制度の運用が開始しました。これにより、仮差押の際、債権者は、損保ジャパンに手数料を支払えば実際に保証金を供託する必要はなくなり、手元資金の問題は大幅に解消されました。

世間的には地味なトピックですが、債権回収の現場にとっては、非常に大きな意義を有する制度であり、債権回収の在り方が変わる可能性も秘めていると思われます。

今後、債権回収を行う際は、損保ジャパンの保証制度を利用して仮差押を行うことを検討することをお勧めします。

 

次に、判決に基づき債権を回収するための方法
「強制執行」について解説します。

債権の回収方法‐強制執行‐

強制執行とは?

強制執行とは、民事訴訟等の裁判手続により確定された権利を実現するための手続です。民事訴訟の判決により債務者の支払義務が確定されても、債務者が支払いを拒絶した場合、任意の支払いは望めません。このような場合、債務者の意思にかかわらず強制的に権利を実現するための手続が強制執行です。

強制執行の対象となるものとしては、主に、債権(例えば、預貯金債権、売掛金等)、動産(現金、什器備品)、不動産があります。強制執行では、これらの財産を差し押さえて金銭化し(換価といいます)、換価した金銭を支払いに充当することにより、債権を回収することになります。

ポイント解説‐民事執行法改正

強制執行においては、対象となる財産を特定して申し立てをすることが要求されており、例えば、預金債権を差し押さえる場合、金融機関と取扱い支店を特定する必要がありました。

しかし、債務者は差押え等を逃れるために従来の取引金融機関以外に取引口座を開設することが常態化していることを考慮すると、債務者の取引金融機関の支店まで特定することは差押えを困難にし、判決が確定したものの回収ができないという事態が日常的に発生し、債務者の逃げ得を許す結果となっていました。

また、債務者の逃げ得を防止するために整備された財産開示制度も、実効性が乏しく、実務ではほとんど機能していない状況でした。

このような現状を改善するため、今般民事執行法が改正され、債務者の財産状況を調査する権限が強化されました。この改正は、債権者の債権回収を容易にするものであり、積極的な利用をお勧めします。

Point1 債務者以外の第三者からの情報取得手続きの新設

強制執行の対象となる財産を調査するため、債務者以外の第三者から情報を取得する手続きが新設されました。

(1)金融機関から①預貯金債権、②上場株式及び国債等に関する情報を取得する手続

改正前は、一部金融機関を除き、確定判決がある場合でも、債務者の口座の有無、その残高などに関する弁護士会照会に対する回答は拒絶されており、債務者の金融機関との取引を調査することが困難でした。

改正民事執行法207条により金融機関から情報を取得する手続が新設され、強制執行の対象となる財産の調査が容易になりました。

(2)市町村及び日本年金機構等から給与債権(勤務先)に関する情報を取得する手続

改正前は、給与債権に関する情報の開示は財産開示制度により一応調査が可能でしたが、後述のとおり、財産開示制度自体が機能していなかったこと等から、給与債権の差押えが行いにくい状況にありました。

改正民事執行法206条は、債権の確実な引き当てである給与債権について、給与債権に関する情報を有する市町村や日本年金機構等から情報を取得する手続を定め債権回収の実行性を向上させました。なお、債務者に対する配慮から、この制度を利用できる債権者は、養育費等の債権及び生命身体に対する侵害に基づく損害賠償請求権を有する者に限定されました。

(3)法務局から債務者所有の土地建物に関する情報を取得する手続

改正前においても、土地建物の登記に関する全部事項証明書(登記簿謄本)を取得することは可能でしたが、そのためには当該土地建物の所在を把握している必要がありました。債務者の自宅・会社の本店の土地建物であれば調査容易ですが、これ以外の不動産を調査することは容易ではありませんでした。

改正民事執行法205条は、債務者が所有する土地建物について網羅的に調査することが可能となりましたので、改正前のように所在を認識していなくても調査が可能になりました。

Point2 債務者の財産開示制度の改正

改正前民事執行法では、債務者が財産開示手続に不出頭の場合、出頭したものの財産内容についての陳述を拒み又は虚偽の陳述をした場合の制裁が不十分でした(行政罰:30万円以下の過料)。そのため、財産開示手続への不出頭・虚偽陳述が横行しており、その結果、財産開示手続自体が利用されないという状況になっていました。

改正民事執行法213条1項6号は、財産開示手続への不出頭・陳述拒絶・虚偽陳述等を刑事罰に格上げし(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)、財産開示制度の実効性を担保する方向に舵をきりました。

刑事罰となることにより、各種許認可や資格の取消し事由などにあたる可能性がでてきますので、懲役や罰金の金額そのものよりも大きなインパクトがあり、財産開示の実効性はかなり向上すると思われます。

財産開示手続においては、裁判所、裁判所の許可を得た場合に申立人が、それぞれ、債務者に質問をすることができるため、強制執行の対象財産の調査には極めて有効です。

以上のように、民事執行法改正により、債権回収の実効性はかなり向上すると思われますので、積極的に強制執行手続を利用していくことをお勧めします。